2015/02
黒部川第四発電所君川 治


【産業遺産探訪  7】


黒部川電気記念館


工事用トロッコ列車



黒部第四発電所の水車発電機室




黒部川の水 発電ルート

(黒部川)

黒部ダム

黒部第四発電所

仙人谷ダム

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黒部      新黒部
第三発電所  第三発電所
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黒部         新黒部
第二発電所  第二発電所
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新柳川原発電所   │  
音沢発電所     │  
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(黒部川)

黒部ダム(重量式アーチダム)

黒四見学会
 黒四発電所が建設されて長野県大町から黒部ダムまで簡単に行けるようになった。更に黒部アルペンルートも整備されて、立山の観光ルートとなっている。しかし、黒四発電所は一般には公開されていないと思っていたが、関西電力と富山県により一般の見学会があるのを知った。
 11月中旬の1日、宇奈月温泉から黒部峡谷鉄道のトロッコ列車に乗り、黒部川沿いの奇麗な紅葉を見ながら約1時間で欅平に着く。前日の雨がうそのように朝から青空の快晴だ。駅の2階食堂が見学会の集合場所で、今回の参加者は28人、皆抽選で幸運を引き当てた人たちだ。この見学会は人気のコースで、申し込み倍率は5倍〜7倍といわれている。


黒部川電気記念館
 前日に宇奈月温泉に泊まり、黒部川電気記念館を見学した。黒部川の電源開発の歴史が一目で分かるように、ジオラマとビデオで判り易く説明してくれる。


工事用トロッコ列車
 今回の視察ルートは、欅平から工事用トロッコでトンネル500mを進み、そこから竪坑エレベーターで200m昇る。ここから仙人谷ダムまで約5.7qの上部軌道をバッテリートロッコに乗って約30分進む。途中、160℃の高熱蒸気で工事をストップさせた高熱隧道を通る。コンクリートで巻かれた現在もトンネルの温度は40℃以上で、硫黄の匂いがキツイ。トロッコの車体も耐熱性の車両となっているそうだ。ここで仙人谷ダムと黒部川の仙人谷峡谷を見ることができる。
 トロッコで登った高さは50mで、ダムから第三発電所までの落差は250mである。黒部川を渡り、再び上部軌道トンネルを800m進と黒部第四発電所に着く。


黒部第四発電所の水車発電機室
 水力発電所は火力発電所や原子力発電所と異なり、殺風景なほどきれいである。日立製発電機2基、東芝製発電機2基で出力38万㎾である。発電所は無人運転で新愛本制御所から監視制御されている。発電所、変電所、開閉所も全て地下設備で、黒部の自然の脅威を受けないように設備されている。
 黒四発電所からは傾斜35度のインクラインに乗る。長さ815mだが、ゆっくり走行するので20分かかる。インクラインを降りると今度は立派なバスに乗る。ここから黒部ダムまで「黒部トンネル」10.2qは関西電力の専用トンネルで、一般の立ち入りはできない。
 クロヨンの名で親しまれている黒部ダムの建設は大破砕帯を制御したトンネル工事で、映画「黒部の太陽」に臨場感あふれて描かれている。


黒部の電源開発
 黒部の電源開発の最初はタカジアスターゼで有名な高峰譲吉博士であることを知った。富山県高岡市出身の高峰譲吉はアメリカからの輸入に頼るアルミニウムを我が国で製造する目的で、東洋アルミナム株式会社を設立した。アルミ精錬には多量の電気を必要とするため黒部川電源開発の調査を始めたが、第1次世界大戦後の不況のためこの計画は頓挫した。黒部川電源開発は日本電力株式会社に引き継がれた。
 最初の発電所は柳河原水力発電所(5万4千kw)で昭和2年に運転開始し、昭和11年には愛本発電所(2万9700kw)と黒部川第二発電所(7万2千kw)が完成した。昭和15年には難工事で有名となった黒部川第三発電所(8万1千KW)が完成し運転を開始した。
 この発電所は黒部峡谷鉄道欅平駅の脇にあるが、水源は遥か上流の仙人谷ダムである。このダム建設のため、黒部の自然との壮絶な戦いが吉村昭の「高熱隧道」にリアルに描かれているが、建設資材を運ぶ日電歩道は写真を見るだけでも恐ろしいルートである。
 昭和26年に電力9社体制が発足した際、黒部川の発電所は関西電力に引き継がれた。
 水力発電所は水が資産である。この水の流れを追ってみると、黒部ダムの水は黒四発電所の水車を回し、仙人谷ダムに入り地下の導水路を通って新黒部川第三発電所(地下発電所)に至り、次に同じく地下の導水路を通って新黒部川第二発電所(地下発電所)の水車を回して黒部川に戻る。
 仙人谷ダムの水は黒部川第三発電所で仕事をして黒部川に戻り、小屋ダムに貯められて黒部川第二発電所で仕事をし、出し平ダムに貯められて新柳河原発電所と音沢発電所に導かれる。宇奈月ダムの水は宇奈月発電所で仕事をし、愛本発電所でもうひと仕事をする。支流の黒薙川に7,600kwの小さな黒薙発電所があり、黒部川水系10ヵ所の発電所の総発電量は90万kwである。







インクライン


君川 治
1937年生まれ。2003年に電機会社サラリーマンを卒業。技術士(電気・電子部門)




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